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神戸地方裁判所伊丹支部 平成10年(ワ)201号 判決 1998年12月10日

原告

破産者甲野病院

こと甲野太郎破産管財人

朝本行夫

被告

兵庫県国民健康

保険団体連合会

右代表者理事長

笹山幸俊

右訴訟代理人弁護士

松岡清人

松岡清彦

主文

一  被告は、原告に対し、金一九五九万八六〇九円及び内金一一〇一万八五一六円に対する平成九年一二月二七日から、内金六四三万七一七九円に対する平成一〇年一月二八日から、内金二一四万二九一四円に対する平成一〇年三月二八日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

主文と同旨

第二  事案の概要

一  本件は、破産者甲野病院こと甲野太郎(以下「破産者」という。)の破産手続における破産管財人である原告が、破産者に対して診療報酬合計金一九五九万八六〇九円の支払義務を負う被告による供託は無効であるとして、被告に対し、右金額及び内金一一〇一万八五一六円に対する支払日の翌日である平成九年一二月二七日から、内金六四三万七一七九円に対する支払日の翌日である平成一〇年一月二八日から、内金二一四万二九一四円に対する支払日の翌日である平成一〇年三月二八日から、それぞれ支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

二  争いのない事実

1  破産者は、平成九年一〇月三日、神戸地方裁判所尼崎支部で破産宣告を受け(以下「本件破産宣告」という。)、原告が同破産手続における破産管財人に選任された。

2  被告は、国民健康保険の被保険者に対する破産者の診療行為の報酬として、以下の期間及び支払期日に関する合計金一九五九万八六〇九円の支払義務を負っている(破産者の右報酬請求債権を以下「本件債権」という。)右全額をいずれも供託した(以下「本件供託」という。)。

(一) 平成九年一〇月一日から同

月末日までの診療

金一一〇一万八五一六円

支払期日 平成九年一二月二六日

(二) 平成九年一一月一日から同

月末日までの診療

金六四三万七一七九円

支払期日 平成一〇年一月二七日

(三) 平成九年一二月一日から同

月末日までの診療

金二一四万二九一四円

支払期日 平成一〇年三月二七日

3  被告の本件供託理由は、以下の事由による債権者不確知である。

(一) 平成一〇年一〇月分以降の診療報酬が、破産財団に属するかが不明である。

(二) 蓮池設備工業株式会社(以下「蓮池設備」という。)が本件破産宣告前に本件債権を目的とする債権差押命令を得た(以下「本件差押命令」という。)が、本件破産宣告により効力を失うか否かが不明である。

4  本社差押命令が被告に送達された後に、破産者から株式会社そりでいる(以下「訴外会社」という。)に対し本件債権が譲渡された(以下「本件債権譲渡」という。)。

5  破産者は、本件供託前に、原告に対し、本件債権が原告に帰属することを承認し、仮に自由財産である場合においても、原告に対し本件債権を譲渡する旨意思表示をなし、かつ、被告に対しその旨を通知した。

三  争点

1  本件債権の破産財団への帰属の有無

(一) 原告

(1) 本件破産宣告前に発せられていた本件差押命令は、本件破産宣告により失効する(破産法七〇条)から、本件破産宣告前である平成九年一〇月一日及び同月二日についての本件債権は破産財団に帰属する。

(2) 本件破産宣告後についての本件債権は、破産者の自由財産であるとしても、前記第二、二5のとおり、破産者から原告に対し譲渡されており、破産財団に帰属する。

(二) 被告

平成九年一〇月一日及び同月二日についての本件債権は、その他の部分と区別し特定することは不可能であって、被告としては同月診療にかかる報酬については一括して供託せざるを得ないものであるから、本件供託はその全額について有効である。

2  本件破産宣告が本件差押命令に及ぼす影響の有無

(一) 原告

(1) 本件破産宣告後についての本件債権は、その性質において破産者の自由財産に属するとしても、本件差押命令は本件破産宣告により原告に対する関係では失効しているものであり、原告との関係で蓮池設備に帰属することはないから、本件債権の履行について被告に債権者不確知の供託原因は存在せず、本件供託は無効というべきである。

(2) 本件債権譲渡及びその旨の通知は、本件差押命令が被告に送達された後になされているものであるから、本件債権譲渡の事実自体は、本件債権の破産財団への帰属を左右するものではない。

(二) 被告

(1) 本件破産宣告後についての本件債権は、破産者の自由財産であるから、本件破産宣告によっても本件差押命令が失効することはない。また、破産手続が進行中に破産者の自由財産(新得財産)に対し強制執行をすることができるか否かについては諸説が存在し、統一的・一義的な解釈・運用はなされていない。このように本件債権が当然に原告に帰属する(蓮池設備には確定的に帰属しない)と解されるものではない以上、破産者が原告に対する本件債権の譲渡を承認し、その旨の譲渡通知をなしていることは、本件供託の有効性を何ら左右するものではない。

(2) 本件差押命令が被告に送達された後に到達した本件債権譲渡に関する通知についても、本件差押命令の取消があったり、同命令自体に効力が認められない場合もあり得るから、原告主張のように無視することはできない。

仮に原告主張のように、本件破産宣告により本件差押命令が失効したとすると、本件債権は、一般原則に従って本件債権譲渡における譲受人に帰属するものであり、破産者にその自由財産として帰属することはないはずである。

第三  争点に対する判断

一  本件債権の破産財団への帰属の有無

1  本件破産宣告前に発せられていた本件差押命令は、本件破産宣告により失効する(破産法七〇条)から、本件破産宣告前である平成九年一〇月一日及び同月二日についての本件債権は破産財団に帰属する。

なお、被告は、平成九年一〇月一日及び同月二日についての本件債権は、診療報酬に関する支払手続ないしその方法のゆえに、右部分の報酬とその他の部分の報酬とを区別し特定することは不可能であって、被告としては同月診療にかかる報酬については一括して供託せざるを得ないと主張するが、平成九年一〇月一日及び同月二日に行った診療に対応する報酬債権の特定はその作業が煩雑となる場合があるとしても、不可能であると認めるに足りる証拠はないうえ、前記第二、二5のとおり、破産者から被告に対して本件債権譲渡の通知がなされている。このような事情に照らせば、被告において右区別及び特定をなすべきであり、これをなさずになした平成九年一〇月一日及び同月二日に関する本件債権の本件供託は無効といわざるを得ない。

2  本件破産宣告後についての本件債権については、破産者の自由財産であるとしても、前記第二、二5のとおり、破産者から原告に対し譲渡されていることは当事者間で争いがない。したがって、本件債権中の右部分についても破産財団に帰属していることは明らかである。

二  本件破産宣告が本件差押命令に及ぼす影響の有無

1 本件破産宣告後についての本件債権は、その性質において破産者の自由財産とみられるところ、破産宣告の効果として個別執行の禁止が規定されている(破産法一六条)趣旨に照らせば、破産債権者は、自己の破産債権について破産者の自由財産に対して強制執行することは許されないものというべきである。

したがって、本件差押命令については、本件破産宣告により原告に対する関係では失効しているものとして扱われることになり、本件債権については蓮池設備に帰属することはない。そして、前記のとおり、破産者が原告に対する本件債権の譲渡を承認し、本件供託前に、被告に対しその旨の譲渡通知をなしているものであるから、本件破産宣告後についての本件債権に関する履行について、被告においては債権者不確知の供託原因は存在せず、本件供託は無効というべきである。

なお、被告は、破産手続が進行中に破産者の自由財産(新得財産)に対し強制執行をすることができるか否かについては諸説が存在し、統一的・一義的な解釈・運用はなされていないから、本件債権が当然に原告に帰属する(蓮池設備には確定的に帰属しない)と解されるものではないことをもって本件供託の有効性を主張するようであるが、本件供託の有効性の判断は客観的に供託原因が存在するか否かという観点からなされるべきものであるから、右の点は前記結論を直ちに左右するものではない。

2  被告は、本件差押命令が被告に送達された後に到達した本件債権譲渡に関する通知について、本件差押命令の取消があったり、同命令自体に効力が認められない場合もあり得ることから、これを無視することは許されないと主張するが、本件では、本件差押命令につき取消されたり、その効力が絶対的に失われたことを認める証拠はないから、それ以上に被告が指摘する点を論ずるまでもない。

また、被告は、仮に、原告主張のように、本件破産宣告により本件差押命令が失効したとすると、本件債権は、一般原則に従って本件債権譲渡における譲受人に帰属するものであり、破産者にその自由財産として帰属することはないはずであると主張するが、右にいうところの本件差押命令の失効は、本件破産手続との関係、したがって原告に対して相対的に失効すると解すべきである(破産法七〇条一項参照)。したがって、本件債権譲渡は依然として本件差押命令に優先されるものとしての法的立場を有するにとどまるというべきであるから、被告の主張を採用することはできない。

三  以上のとおり、原告の請求は理由がある。よって、主文のとおり判決する。

(裁判官沼田寛)

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